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―それは、土砂降りの雨の降った翌日のことだった。
ここ越前の国の本丸では、昨夜までの雨が嘘のように雲1つ無い青空が広がっており、
連日続いた雨で溜まりに溜まった大量の洗濯物が一斉に干された。
そんな中、この本丸の主である『小雪』は、今日近侍を務める予定の大倶利伽羅を探しに、
洗濯物が連なる本丸の庭に来ていた。
「主殿?どうされましたかな?」と小雪に気付いた一期一振が洗濯物を干す手を止めて
尋ねてきた。「ああ、一期。大倶利伽羅見なかった?朝餉の後から姿が見えなくて…。」
と返す主に、そういえば本日の近侍は彼だったなと内番表を思い出していた。
「大倶利伽羅殿ですか?彼なら先程離れの方に向かって歩いているのを、
見かけましたよ。何か大切そうに抱えているようでしたが…。」と大倶利伽羅の行方を教えてくれた一期に
礼を言い、小雪は離れの方へ向かった。
到着した離れの中を覗くとそこには誰もおらず、入れ違ったかなと思った小雪の耳に
草木が揺れたような音が届いた。
音のした方へ向かってみると、そこには今日の近侍のジャージの後ろ姿があった。
どうやら此方の気配には気付いておらず、何かに集中しているようだった。
「…大倶利伽羅。」と名前を呼ぶとビクリとその背中が震え、ゆっくり振り返る。
「なんだ、アンタか…。」と息を吐く大倶利伽羅の手元を覗き込もうと背伸びをしながら、「ねえ、何してたの?」と尋ねる。
「…アンタには関係な『みゃ〜お』……」関係ないと続けようとした大倶利伽羅の台詞は、
彼の手元から聞こえた鳴き声に遮られ、彼はしまった!というように顔を右手で覆った。
「え…、大倶利伽羅、それ、猫?」と茂みを乗り越えて小雪が大倶利伽羅の手元を見ると、
まだ生後1カ月程の薄汚れているが元は白いであろう子猫が青い瞳を此方に向けていた。
「かっ、可愛い…?」という小雪の声に大倶利伽羅は「…怒らないのか?」と尋ねてきた。
「何が?」と聞き返す主に「…この猫、親兄弟と逸れてしまっただろうって、勝手に此処で面倒みてたんだぞ。」
と大倶利伽羅はそっぽを向きながら呟く。
「なんで?悪い事したわけじゃないんだし、謝る事じゃないじゃん!」と大倶利伽羅の顔を強制的に此方に向かせ、
「ありがとう!大倶利伽羅!」と満面の笑みで礼を言った。
すると、「アンタ可笑しな奴だな。」と大倶利伽羅はフッと笑った。
「なっ?可笑しな奴って何よ?それより、この猫本丸で飼えないか聞いてみようよ!」と
大倶利伽羅の腕を引っ張って立ち上がらせた。
大倶利伽羅は左手でしっかり子猫を抱え、己の右腕を引く主の小さな背中を見て
優しく微笑んだ。
白猫は優雅に横切っていく
2016/07/11