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―春、本丸の庭の畑の隣に群生する菜の花が黄色い花を咲かせる頃。
出陣から帰って来た第一部隊の隊長である一期一振が庭で遊んでいる弟達を眺めていると、
近侍の山姥切国広を連れた審神者『陽奈』が彼らを出迎えた。
「皆さん、お疲れ様です。湯浴みの支度は整っているので、どうぞ汗を流してきて下さい。」と刀剣達1人1人に手拭いを手渡す主を待ち、
自分以外の者が湯浴みに向かうのを見届けた後に主に向き合った。出陣から帰還すると部隊長は主に報告する決まりなのである。
「―新しい刀剣は発見出来ませんでしたが、資材は木炭と玉鋼を50ずつの収入を得ました。
…ところで主殿?弟達は大人しく待っていたでしょうか?」と1つ咳払いをして尋ねた。
隊長としての任を済ませた後に、このように弟達を気に掛ける一期の兄としての顔は、
年上の兄弟のいない陽奈にとって微笑ましいものではあるが、
如何せん、弟達の事となると話が長くなってしまうのは、彼の悪い癖である為、今回の話も長くなるのだろうなと
山姥切を先に帰しておいた。
「―そこで鯰尾が敵の太刀を倒したのは見事でしたな!普段ふざけていることが多い男ですが、やる時にはやる男だと―」
とそこでハッと我に返った一期は、自分がまた1人で暴走していたのだと気づき、顔を赤らめた。
そんな一期にクスクスと笑いながら「フフッ、一期さんは本当に弟思いのお兄さんですね。少し、羨ましいです。」と零す陽奈に、一期は首を傾げる。
「羨ましい…ですか?」と尋ねる一期に「私、双子の弟達が5歳下にいるんですけど、
上に兄や姉がいなくて…。」と少し笑う。
共働きの両親の代わりに、姉として下の弟達の面倒を見なくてはならなかった陽奈に
とって、甘えられる存在は少し羨ましかった。
「…主殿、では私のことを兄と呼んでみてはいかがでしょうか?」という一期の申し出に
陽奈が目を丸くするのを見て、「あっ、今のは忘れて下さい…!」と自分の言った事を
振り返って赤くなった。
仮にも自分の主である方に、私はなんてことを…!とブツブツと呟く一期に
「…一兄?」と声を掛けると、一期はバッと顔を上げた。
「たまに、こう呼ばせてもらいますね?」と嬉しそうに笑う主に一期はホッとし、
「主が宜しいのでしたら。」と返した。
「主〜!一兄〜!」と2人を呼ぶ声が庭から聞こえてきたので、陽菜は
「じゃあ、行こっ!一兄!」と一期の右手を引いて短刀達の方へ歩き出した。
「…今は、兄のままでも…いつかは…。」という一期の独白は菜の花に集まった
モンシロチョウにはしゃぐ短刀達の声に溶けて消えた。
ひらひらと訪れた蝶
2016/07/11