お題

    ―買い物に付き合ってもらいたいの。という審神者の言葉が始まりだった。
    今日の近侍であり、初期刀である山姥切国広は主である『夕』と万屋に来ていた。
    この万屋は、資材や日々の消費品だけでなく、仙人団子などの便利道具、本丸の増築大工、特売日もあり、
    ここに来れば大抵の物が揃う現世のショッピングセンターのような場所。
    「写しなんか見せびらかしてどうするんだ。」と相変わらずの卑屈具合で呟く山姥切を
    後ろに連れて、夕はお守りを見ていた。
    夕の本丸は着々と刀剣の数を増やしているが、最近、検非違使の出現が多くなった為、
    刀剣達の破壊を防ぐ為のお守りを買いにきたのだ。
    「もう!またそんな事言って!ほら、これで終わりなんだから
    もうちょっと付き合ってよ!」と背後の彼の方を振り返る。
    その山姥切の右手には、魚などの本丸では手に入らない食材が入った籠を持っていた。
    納得いかないといった彼から視線を逸らすと、夕はお守りを購入する為に財布を出した。

    「う〜ん。最近書類ばっかりだったから、良い息抜きになった!ありがとね!国広!」と礼を言う夕に「…あんたの命令だからな。」
    と布を深々と被り直す山姥切の頭にポツリと水滴が落ちてきた。それは次第に増えていき、青空を見上げる2人に容赦なく降る。
    「わわっ!降ってきちゃった!」慌てる夕達がいるのは本丸から約1里ほどの所で、周りに雨宿り出来そうな建物はなかった。
    どうしたものかと考えている夕の後ろでシュルッと何かを解く音が聞こえたと思ったら、
    夕の頭を白い大きな布が覆い、何事かと横を見ると山姥切が自分の布を取って被せたのが分かった。
    「写しの汚れた布で悪いが、ここにいても濡れ鼠になるだろう。後少しだから走るぞ。」と夕の肩を抱いて駆け出した。
    夕は山姥切が抱く自分の肩の熱と2人を覆う布から僅かに香る山姥切の匂いに、鼓動が早くなるのを感じ、誤魔化すように俯いて走った。
    ―心臓に悪い!と普段自分を卑下ばかりする山姥切のさりげない気遣いは、夕をときめかせるのには十分だった。
    自分を覆っている白い布と天気雨が狐の嫁入りを連想させて赤くなった頬を山姥切が不思議そうに見ていた事など知る由もなかった。
    この後本丸の戻り、びしょ濡れになった2人を見つけた小夜左文字と歌仙兼定に見つかって説教をされ、2人仲良く風邪をひいたのは言うまでもない。

    私と貴方とお天気雨

    2016/07/11