お題

    ―本丸の殆どの刀剣達が各々の部屋で休み始めた午後10時頃。
    審神者の『美月』は喉の渇きを感じ、厨に歩いていた。
    月の光に照らされた廊下のひんやりとした感触が、やけに現実味を帯びていて、美月は肩を震わせた。
    「主か…?」と突然掛かった声に顔を上げると、ゆったりとした藍色の浴衣に身を包んだ、
    三日月を瞳に宿した付喪神が、縁側に柱にもたれ掛かるようにして座っていた。
    「三日月…?こんな所でどうしたの?」と問う主に「いやな、見事な月が出ていたので、月見酒をとな。」
    と右手に持つお猪口を軽く持ち上げた。よく見ると、彼の隣には酒の入っていただろう白磁器の徳利が置いてあった。
    「三日月さん、お酒の良いですけど、限度は守ってくださいね!」と呆れたように言う美月に、
    「あいわかった。なあに、加減は弁えている。」とお猪口に残っていた酒を呷った。

    一旦三日月と別れた美月は、厨で水を飲み、部屋に戻ろうと来た道を歩いていると、先ほどの場所に三日月宗近の姿があった。
    まだ残っていたのかと声を掛けようと顔を覗き込むと、三日月は寝息を立てていた。その貌は息をのむほどの美しさだった。
    美人は寝顔まで美しいのかと、ため息と吐きながら眠る彼の肩に触れようとすると、
    グイッと右腕を強い力で引っ張られ、咄嗟に目を瞑った美月を温かな体温に包まれた。
    「はっはっは。どうだ、驚いたか?」とウチの鶴丸国永が悪戯が成功した時のような目をした三日月が美月の顔を覗き込んでた。
    顔に熱が溜まるのを感じ、三日月の胸元に顔を埋めた美月の頭を撫でながら、「主よ、知っているか?今宵の月は、
    この月2度目の満月だそうだ。」ぶるーむーん、というそうだとテレビか何かで知ったであろう情報を、
    瞳の中の三日月を輝かせながら話す彼は、まるで幼子のようで、気が付いたら美月の手は三日月の頭を撫ででいた。
    キョトンとした三日月の顔に、ハッと我に返って手をどかそうとしたが、「あっははは!いいぞいいぞ、触って良し。」
    と笑う彼は、先ほどの子供のような表情からいつもの三日月の顔に戻っていた。
    「どれ、主よ。暫くここで月を見ながら、このじじいの相手でもしてくれ。」と三日月は美月を抱きしめる両腕に力を込めた。
    見上げる月はどちらの月か、夜空に浮かぶ青い満月と目の前を占領する男の宿す三日月に挟まれた空間から美月が抜け出せたのは、もっとずっと後の事。

    蒼いにそっと照らされて

    2016/07/11