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―この本丸の審神者になって1年が経とうとしていた。
去年の春もこうして桜の木を見上げていたっけ、とこの本丸の審神者である『桜子』は花弁を散らす桜の大木を見上げていた。
桜子はこの1年の事を思い出していた。審神者に選ばれ、初期刀の山姥切に出会い、初鍛刀の小夜や大倶利伽羅に苦戦したり、
燭台切と厨に立ったり、万屋の帰りに襲われそうになったのを一期に助けてもらったり、三日月と縁側でお茶を飲んだり…。
たくさんの刀剣達との思い出は溢れ出す。そんな桜子に近づく影があった。
「君、こんな所にいたのか。もうすぐ宴が始まるぜ。」と声を掛けてきたのは、鶴丸国永だ。
「ああ、鶴丸さん。すいません、なんだか落ち着かなくて…。」と眉を下げる桜子に「何かあったのかい?」と鶴丸は桜子の顔を覗き込む。
「いえ、ただこの1年の中でたくさんの事があったなあって思い出していて。」と笑った。
この鶴丸は桜子の下に初めて来た太刀であり、今でも鶴丸が顕現した時の事は鮮明に覚えている。
桜吹雪の中現れた白く輝く彼に一瞬にして心奪われた。一目惚れといっても良い。
桜子がフッと遠くを見ながら思いを馳せていると、突風が吹き、大量の桜の花弁が舞った。
「きゃっ!鶴丸さん…?」突然、鶴丸が桜子を抱きしめた。
「…今、君がこの桜吹雪に攫われてしまうような気がした。」そう零す鶴丸の腕は震えており、顔にも不安の色があった。
「鶴丸さん…。…私はどこにも行きません。貴方の目の前にいますよ。」と桜子も鶴丸の方に向き直り、彼の背中に腕を回した。
今までたくさんの人に求められてきたが、本当に大切な人とはずっと一緒にいる事は出来なかった彼が桜子はとても愛しかった。
「この戦いが終わるまで…、私は貴方達と共にいるわ。」だからいつもみたいに笑ってと鶴丸に呼びかける。
「…全く、君は時たま驚きの事を言ってくれるな。でも…。」とそこで言葉を切った鶴丸は、
自分の羽織っていたフード付きの純白の滑らかな羽織を桜子に被せた。羽織に付いている金色の兵庫鎖がシャラシャラと音を立てた。
「俺は、この戦が終わっても君と共にありたい。本当は今すぐにでも隠してしまいたいくらいに。」
と一言一言噛み締めるように言葉を繋げる鶴丸に桜子は息をのんだ。
鶴丸のいう『隠す』というのは、神隠しを表しており、1度隠されると2度と現世に戻る事が出来なくなってしまう。
「でも、君を困らせる事はしたくないんだ。だから、これは君が決めてくれ…。」と揺れる鶴丸の金色の瞳に、自分の理性が大きく揺れるのを桜子は感じた。
「さて!この話はもう終いだ。早く広間に行こうぜ!」と気丈に振る舞う鶴丸の後ろを桜子が少し幸せそうに歩いていた事は、本人以外誰も知らない。
桜の舞う中、永遠を誓おう
2016/07/11