Short story

    昼下がりの学園都市
    人口の殆どが学生又はそれに準ずる子供で形成されているためか、この昼食間際という時間帯はどこの料理店も大勢の人で賑わっている

    「はー、やっぱ何処も人だらけね、コンビニで手早く済まそうかしら」
    人ごみの中、休日にもかかわらず学校指定の制服に身を包んだ少女が呟いた
    学園都市の中でもトップクラス、所謂お嬢様学校−常盤台中学の制服である
    短く、やや乱雑に切り揃えられたボーイッシュな印象を与えるその茶髪
    前髪の半分を留めるように差し込まれた2本の銀色のピン
    学園都市の第3位、御坂美琴は近くのファミレスに寄る予定を変更し、コンビニエンスストアで缶ジュースでも買おうかと踵を返す
    「……ん?」
    美琴は人ごみの先に自分と同じ制服の少女を見つける
    制服だけならば同校生がいた、という認識だけで話しかけるようなことはしなかっただろう
    正確には同じ制服と頭についた赤外線等を視覚化するゴーグルを見つけたからだ

    「ちょ、ちょっとアンタ……!」
    「……ああ、お姉様、お久しぶりです、とミサカはお姉様との遭遇に驚きながらも目礼を行います」
    美琴が話しかけると、その少女はくるりと振り返り無機質な声を響かせる
    美琴と同じ顔をした妹達の一人はそう言って特に表情を変化させないまま美琴へ目礼を行った
    「いや、アンタ達表情変わってないし……。あ、もしかして一〇〇三二号?」
    すると少し目を見開いたようにしながら妹達の一人、一〇〇三二号は美琴へ疑問を投げかける
    「お姉様はもしかして私達の見分けがついているのでしょうか、とミサカは目を輝かせながらお姉様へじりじりと距離を詰めてみます」
    「え!? う、うーん、多分だけどアンタとロシアの一〇七七七号と打ち止めだっけ?ぐらいしか見分けつかないと思うわよ」
    僅かながらも期待を込めた瞳で見つめられて美琴は困惑しながらもそう返す
    「その共通点とは一体何でしょうか、とミサカは法則性を問いかけます」
    「一〇七七七号は何か他の個体より考えだだ漏れだし、打ち止めは明らかに体格違うし、アンタの場合はそのペンダント」
    ス、と美琴は一〇〇三二号の胸元で太陽光を反射して煌く銀のネックレスを指差す
    「それ、アイツから貰ったやつでしょ。だから分かるの」
    「成る程、お姉様が私を見分けられたのはこれのお陰なのですね、とミサカは少し感慨深い気持ちになります」
    そう言って一〇〇三二号はネックレスをそっと両手で包み込むように握り締める
    美琴はそんな彼女を見てある事を思い出す
    彼女達がかつて凄惨な実験のモルモットにされていた時、初めて妹達と遭遇した時の事を
    美琴が初めて接した妹―九九八二号も、こんな風に自分のあげたカエルの缶バッジを抱きしめていたと

    「――」
    でも、あの時とは違う
    一〇〇三二号は死んではいない、今尚、この世界に生きているのだ
    悪意の中に僅かに秘められた希望の世界に。どうしようもなく愛おしいこの世界に
    「……?お姉様、どうかしまし――」
    何も喋らない彼女を心配してか、変わらぬ表情のままひょこひょこと美琴の表情を見つめ、言葉を発するがその本人に遮られる
    「お姉様……?」
    そっと、抱きしめられたのだ
    そっとというには些か語弊があるが、それでも、一〇〇三二号にとっては少なくともそう思えた
    自分とは僅かに差のあり、衣服越しにも感じられる体温
    微かに震える、美琴の体
    「……ごめん、こんな事、いきなり言っても分かんないと思うけど……今更だけど……」
    生きててくれて、ありがとう。生まれてきてくれて、ありがとう
    いつもの美琴らしくない、儚げで、妹達よりもか細い声で、そう言われる
    一〇〇三二号は自分よりも幼く、けれども自分よりも多くの事を実際に感じ、学んできた少女を思い浮かべる
    「(上位個体はいつもこんな気分なのでしょうか)」
    そう思っていると、突然べり、と美琴は一〇〇三二号を引き剥がし後ろを向く
    「……ホントごめん、なんか、今言っておきたい気分になってさ……」
    「お姉様」
    俯き始め、依然顔を見せようとしない美琴の服の裾をちょいちょい、と引っ張り彼女を振り向かせる
    一〇〇三二号の想像通り、美琴の目は僅かに潤み、今にも泣きそうな顔にしか見えない状態だった
    今でも自分達を心配して、勝手に泣いて、勝手に傷ついて、そうして一〇〇三二号達を守り続けてくれた姉へ向けて、彼女は言う
    あの頃とは違う、一人一人生きる自分達の気持ちを、彼女に伝えるために
    「私達は、お姉様の代わりの人形として量産されました。そしてそれに疑問を感じてはいませんでした。」
    かつて美琴に対して、自分がモルモットであると、一八万の価値しかないと。そう言い放った頃、あの頃へはもう戻らない
    「しかし、あの人に、そしてお姉様に救われ、それは変わりました」
    自分達に対して、多くの問いを、当然の怒りを向けてくれた、そんな姉に
    「お茶には沢山の味と種類があることを知りました、空が青いだけでなく、様々な色をもつことを知りました。
    空気に多くの味があることを知りました、何かの為に、努力することを知りました。誰かを好きになることを知りました」
    不器用でまっすぐで、自分に暖かさを教えてくれた姉に
    「全てのミサカ達を代表して言います。……ありがとう、お姉様」
    そう、一〇〇三二号は美琴に言い微笑む
    「……、なんだ、そんな顔もやればできんじゃない……アンタ!」
    ごしごし、とやや乱暴に服の袖で目元を擦り、いつものように力強く笑い、美琴は一〇〇三二号を力強く抱きしめる
    文字通り力強く、だからこそ強く感じる美琴の気持ち

    「……お姉様とこうして居られることは、学園都市組の特権かもしれません、とミサカはそっと優越感を抱きます」
    「え?」
    「こんな人通りの多い往来で、お姉様と所謂愛の抱擁を交わしているのですから、とミサカは若干の含み笑いをしてみます。ふふふ」
    昼食時間こそ通り越したが、それでも休日。人通りの多めである往来で抱きつきをしている自分は――
    「――っ!?!?」
    その考えに至った瞬間美琴の顔がかーっと真っ赤に染まる
    対して一〇〇三二号はそれにニヤリと些か悪趣味な笑みを見せ
    「こんなにか弱いお姉様は珍しいですね、とミサカは視覚情報を用いてミサカネットワーク内にお姉様の純情な顔を同期させます」
    そっと美琴から離れ、わなわなと震える美琴の顔をピックアップして視界に捉える
    それと同時にミサカネットワーク内のミサカ達がガヤガヤと騒がしくなった
    「(お姉様を真っ赤にさせるとはなかなかやりますね、とミサカ一〇〇三九号は口角を上げます。フッ)」
    「(正直お姉様よりもあの人の姿がみたいです、とミサカ一〇七七七号は愚痴を零しながらもお姉さまの顔のバックアップを開始します)」
    「(お姉様をいじるのはあまりしないほうが、とミサカ一九〇九〇号はささやかな提案をしてみます……)」
    「(そんなことよりもお腹空いたー、ってミサカはミサカは駄々をこねてみるの、あ、待って!)」

    「じー……」
    一人のミサカの発言により一〇〇三二号は自分が空腹であることを思い出す
    「……はっ! って今度は何ジト目で見つめてるの? ……え?お腹空いた?」
    美琴の疑問に返事をするかのように一〇〇三二号のお腹がきゅう、と鳴る
    「できれば暖かい紅茶が飲みたいです、とミサカはこの際おねだりをしてみます」
    「はぁ、しゃーないわね。じゃ、行きましょうか!」
    美味しい紅茶、あとケーキもね。と付け加えて、美琴は歩き出す
    不器用な姉妹のとある話―――

    2014/12/13