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―その神様に出会ったのは、庭の桜が満開になった日のことでした。
本丸の廊下を近侍であり初期刀の加州清光と共に鍛刀部屋へと駆け足で向かう小柄な少女は、
この山城国の本丸の審神者である『梓』だ
その彼女の頭と腰辺りには、本来人には付いていない猫の耳と、二又の長い尻尾が揺れており、
少女がただの人間ではない事を物語っている。
彼女は人間の父親と猫又という妖の母親を持つハーフで、幼少期は外に出ることが出来ず、
辛い思いをしたが、この本丸の刀剣男士は最初は驚きはするものの、気味悪がったりせず、
梓をとても慕っていた為、本丸内ではその耳と尻尾を隠すことはなかった。
そして、この満開の桜が花弁を散らす日に、新しい仲間を迎えることとなったのだ。
鍛刀部屋に到着すると、そこには一振りの太刀が静かに置いてあった。
長さは80cmは優に超えており、両手にズシリとくる重さは未だに慣れるものではない。
梓は落とさないようにしっかり持って霊力を込める。顕現の方法は審神者によって様々だが、
比較的霊力は高めである梓は少し霊力を込めるだけで、顕現をすることが出来るのだ。
「古備前の鶯丸。名前については自分でもよくわからんが、まあよろしく頼む。」
桜吹雪の中から現れたのは、右目をウェーブのかかった前髪で隠した、
全体的に鶯色の刀剣男士であった。
―なんとも桜の似合う刀剣男士だ―と、頭の片隅で思いながら、鶯丸の顔を見上げて、
「はじめまして!鶯丸さん!私がこの本丸の審神者です!」と自己紹介をした。
「おや?今回の主は、なんとも可愛らしい耳と尻尾をもっているなぁ。」とホケホケと笑う鶯丸に、
梓はガラス玉のような丸い目を大きくした。
初対面でこの猫の耳と尻尾を可愛らしいなどと言われたことなど今まで無かったからだ。
「…気持ち悪くないんですか?これが…。」と先ほどの自己紹介とは違う震えた声で問いかけると、鶯丸は
「はて…?何故気味悪がらねばならないのだ?俺は君のこの愛らしい耳と尻尾が気に入ったのだがなぁ。」と
優しい手つきで梓の猫耳に触れた。
梓は自分の顔に熱が上がるのを感じて俯いたが、猫耳と二又の尻尾が嬉しそうに揺れているのを見て、
鶯丸はまたホケホケと笑った。
短刀達が駆け回る庭を眺めながら、内番服であるジャージに身を包んだ鶯丸は縁側で茶を啜っていた。
そんな鶯丸のいる縁側に近づくパタパタという足音を聞いた鶯丸は口角を上げて、足音のする方に顔を向けた。
「あっ!鶯丸、やっぱりここにいた!」と駆け寄ってきたのは、鶯丸の予想通り梓だった。
「ああ、主。仕事の方は終わったのか?ならば、俺の隣に座ると良い。」と自分の隣をポンポンと叩いた。
お言葉に甘えて梓が座ると「今日は大包平の好きなものについて話そうか。」
と鶯丸は何時ものごとく自身と刀派を同じくする大包平について語りだした。
そんな鶯丸の話を聞いていた梓はフフッと笑い出した。
不思議そうに此方を見る鶯丸に「いや、鶯丸はホントに大包平が大好きなんだね。」
と思ったことを素直に言う梓に「ああ、あいつとは兄弟みたいなものだからな。」と笑って答えると、
「ああ、しかし…。」と一旦言葉を切り、上半身を捻って梓に体ごと向き直ると
「主のことはあいつ以上に好いている。」と蕩けるような表情で見つめてきた。
梓はそんな鶯丸に赤くなった顔を見られないように顔を上に向けた。
「そっ、そういえば、そろそろ鶯丸が来て一年だね!」とどもりながら、梓は話を逸らそうとする。
鶯丸がこの本丸に来て一年が経とうとしており、その間に色々な事を知った。
ボンヤリしてそうで結構周りを見ていたり、意外に面倒見が良かったりと、鶯丸を知れば知るほど梓は鶯丸に惹かれていた。
「そうだなぁ。もう一年か、早いものだな。こうして主と出会い、主は見目だけでなく、
心の美しい女性だと知って好きになってしまったのだ。」と和やかに笑った。
結局元の話題に戻ってしまい、ますます顔が熱くなってしまった梓の右腕をグイっと突然引っ張ると、
驚く梓の頭を自身の膝の上に置いた。所謂、膝枕である。
「仕事が立て込んでいて疲れただろう。少し休むと良い。」と頭を撫でてくる鶯丸の手は温かく、
安心した梓は訪れる眠気に逆らわず、瞼を下ろした。
「…隈が出来ているな。ゆっくり休め。」と風の悪戯で主の髪に落ちた桜の花弁を取り、
茶に立った茶柱を見つけて微笑み、口に運んだ。
桜―心の美しさ―
(俺が惚れた君のその美しい心が曇らないように、俺がいつでも守ってやるぞ。)
2016/05/23